天保異聞 妖奇士 説十八

相変わらず夕方にこの内容は凄いな。
いや、でもあえて子供も大人も視聴するこの時間帯を狙っているんだろう。
それに、そもそもこの内容が本当に子供向けでないか? という疑問があるか。
自分が子供の時はどうだっただろう・・・。仮面ライダーBLACKを見ていた記憶はあるんだけどなぁ。
ところで 小笠原が持ってた連発クロスボウは何? すごくベルセルクで出てきそうなんだけど(笑)

山崎屋が食べていた妖夷『涙孥』。あれは人と妖夷の間の子だという。
『涙孥』の父は『於偶』、そして母親は――ニナイ。
そして、何故松江ソテがその事を知っているかというと・・・彼女も同じ経験があるから
『遊兵』を「坊や」と呼んでたけど、もしかして比喩じゃないのか?

米吉や山崎屋は、『於偶』と『ニナイ』を天津神イザナギイザナミとして崇めていた。
つまり『涙孥』は『蛭子』というわけだ。*1
しかし漢神の事を考えると――夫である『於偶』はニナイが創り出したモノで、神なんかじゃない
おそらく、ニナイの想念と異界の力が合わさって生まれただろう。アトルがケツアルコアトルを生み出した様に
だけど・・・『涙孥』はある意味『蛭子』と同じだ。
蛭子=出来損ないの生物として生まれ、親に捨てられた哀れな子供だ。
『努』とは「奴隷の子」という意味で、さらに「涙」とまで付けられている。
『涙孥』という漢神を付けられたこの「子供」は、どう生きていくのだろう・・・

そういえば『蛭子』も葦の舟で流された以降の噺は無いな・・・
二重影では「日流子」となっていたけど・・・太陽に焼かれたのか・・・?
ちなみに『二重影』と『妖奇士』で使われてる資料は、同じ<白川静の本だね。

成川は「知識を追い求める者」が陥りやすい選民思想に罹っていたのだろう。
そしてその知的欲求は世界の理―――この世の真理―――を渇望した。
その二つを同時に叶える方法がある。・・・己が神となる事だ
だから成川は神と成ったニナイ=イザナミを崇めていたのだろう。
結局、『古き民』=国津神とするのも、彼等を支配する者=天津神という、狂った欲望から生まれたものか。

ニナイの漢神の『異』とは、鬼=人々を惑わす者が手を上げて喜んでいる姿を表している。
もはや彼女の漢神は「ニナイ」ではなくなっていた=変容していたという事か。
そして「この世」に対して嫌悪・憎しみを持っていた彼女は『涙孥』という呪いを現世に流した。
その所業はまさに『鬼』と呼ぶに相応しいだろう。

往壓が言った「本当の『山の民』」という言葉が、色々な意味が含まれていそうで・・・色々な感情が含まれていそうで、自分の言葉では表現出来ない。
そんな演出を出来る會川昇に尊敬の念を覚えた。
あと、 小笠原放三郎の苦悩が大変気になった。

それぞれの楽園

  • 米吉

彼は『山の民』になりたかった。
一年中畑を耕して、そのほとんどを年貢として持っていかれ、農民の暮らしはさぞ厳しかっただろう。
だから彼等には年貢も納めず、畑も耕さず、自由に生きている『山の民』の暮らしが「楽園」に見えたのだろう。
だが、実のところ『古き民』の生活はとても苦しい。
日々、食べ物と寝床の事を考えるだけの生活で、まるで地獄だとアビは言う。
米吉達が見た大量の食物は、季節が秋だった事から冬に備えて備蓄していたのだろう。定住しない彼等はもちろん田畑なんて作れず、そのせいでちゃんとした食料の供給パイプなんて在る訳がない。
そして、どうやら『山の民』は蝦夷の子孫との事。
つまり『山の民』は差別され、住処を奪われ散り散りとなった者だ。
・・・断じて成川の言う様な、国津神の子孫だなんていう選ばれた者達ではない。
町に住まず、放浪してたのも、自由を求めてたのではなく、町に住めなかったから仕方なく山に引き籠もったというのが真実だろうな。

  • ニナイ

彼女は人に追われるたびに山を移り、その日暮らしで何の為に生きているのか分からない『山の民』に絶望していた。
法律という鎖も、『山の民』という鎖も、「常識」という鎖*2も無い世界を・・・楽園を望んだ。
彼女にとっては、まさに異界がそれだった。
しかし異界に住む為には、妖夷と交わる必要があり、また妖夷は異界には住めない。だから『蛭子』を現世に流した。
・・・『妖夷』とはいえ、彼女は実の子である『涙孥』を愛していなかったのだろうか?
――おそらく、彼女は愛情なんて持っていなかっただろう。
彼女にとって『涙孥』とは、己の「人」である要素と現世への呪いが詰まった「物」であり・・・例えるなら垢ぐらいの感覚だったと思われる。

『妖夷』と異界、人間

人が異界で生きていけないのは分かる。充分有り得る事だ。しかし異界から生ずるはずの妖夷が生きていけないのはおかしい。
おそらく、以前にも軽く触れたけど『妖夷』とは異界の「力」と、人の想念が合わさった存在なのだろう。
異界には大きなエネルギー(スカラー)のみが漂っていて、現世に現われる時、人の想念により姿(ベクトル)を得る。
そしてベクトルを持った存在が、再びスカラーになる事なんて出来ない。故に『妖夷』は異界に存在出来ない。
人が条件付きであろうと異界に存在出来るのは、独自にエネルギーを内包しているからと思われる。

*1:軟体動物の様=骨の無い生物で、微かに手足と思われる物がある

*2:おそらくニナイは、実弟であるアビを愛していた