天保異聞 妖奇士 説六

往壓に「死ねッ!」と憎悪をぶつけてくる篠。
――愛した者が親友に殺されてからどんな人生を送ってきたのだろうか?
存在しない殺人の罪を叫び、独りで生きてきた15年。
もはや憎しみは凝り固まり、狂気に変わっているのだろう

天宇受賣命(アメノウズメ)の踊りだって!?
それは宰蔵が『神』と関わりがあるってことだろ!?
・・・宰蔵も色々あったんだろうなぁ。
家を継ぐために男として育てられ、名前さえ「宰蔵」という男の名前を付けられた。
だが、生まれた時から踊りを舞ったという彼女は、生まれた時から『巫女』『女性』の才を持っていた。
誰よりも「女」として生まれ、男として育てられた人生。
――だから今、蛮社改所に居るのだろう。

江戸時代にメキシコに渡った日本人なんて居たのか・・・。
甲冑もつけず、銃も持たない野盗なんて、「妖刀」とさえ言われた日本刀を持つ彼等にとって敵じゃなかったんだろうなぁ。
確かにマヤ文明では、神に心臓を捧げる儀式があった。
ヨーロッパ人には悪魔の所業に見えた儀式だけど・・・当時の日本なら、ある程度共感出来ただろうな。
なんせ、つい最近まで―――或いは今でも―――人身御供を行ってたんだし。
アトルが日本に親近感を覚えたのも、そう言うところやアニミズム等の共通部分を見付けたからだろう。

往壓には、居場所を求める心がよく分かってるんだろうな・・・
異界から逃げる為、次々と居場所を失い――雲七という「居場所」を失わない為、無意識に漢神さえ使った往壓には。

鳥居耀蔵が言う通り、アトルがケツアルコアトルを呼び出し、ケツアルコアトル=雪輪の存在が怪異を起こしているのかもしれない。
だが往壓の言う通り、起きてしまった事象の「原因」を消したところで、生じてしまった「結果」が消えるわけじゃない。
・・・当たり前の事だけど、言われるまで自覚してなかったな。
うん。為になった。