天保異聞 妖奇士 説四

テスカトリポカやディアブロの名前を出すって事は、アトルはメキシコ、アステカ地方の生まれか?
――何でそんな人間が日本に居るんだ?
インドネシアの人間とかは来てたらしいけどなぁ。
偶然アメリカから流れてきたとも思えないんだが・・・

結局―――やっぱり―――往壓がアトルに対して抱いていた感情は、同情という憐れみ
つまりアトルを差別、偏見の目で見ていたという事だ。
可哀相? アトルの過去を何も知らない往壓が何故決め付ける?
・・・真実は往壓が悟った通り「誰もが異人」という事。
他人の事情や感情なんて決して分からない。
聞いたところで、想像するしかない。
――人は皆、孤独である。
だが、孤独であるからこそ、分かり合おうと人は努力する。

浮民である証から、自らを象徴する漢神を取り出す往壓。
各々に宿る漢神という異形・化物。
それは各人が異なる存在である証明。
そして、浮民の証から「往」という漢神が現われたという事は・・・「浮民の武士」で在る事こそ、「竜導往壓」という人物の証明だという事。
・・・こりゃ浮民の刺青は消さないだろうな。