みえるひと 第十六譚

ハセとやり合う彼。傲っていた彼は挑発に乗り、一人で戦おうとする。
明神が言うには、ハセは魂を補食して力をつけていくタイプで、彼が倒せるような奴ではない。
ハセ。――ハセという名前。
もはや自分を「自分」と定義出来るのはこの名前しかない。
数多の魂を喰らい、理想の姿、理想の力を得たハセは、生前の自分とは全く違う存在となっている。
・・・きっと、自分が「何故」陰魄として存在しているかさえも分からなくなっているのだろう。
「陰魄」として存在する理由すら失ったハセ。
ならば、「ハセという名の陰魄」は陰魄の本能のままに存在しよう。
それが――陰魄ハセの最後の存在理由だろう。
あっけなくハセに捕まる彼。
――だが、事態はより最悪の方向へ進む。
ハセに補食されるその瞬間、ハセと彼の間に割って入る明神。
だが彼を庇った為に、ハセの攻撃を喰らい、その魂を吸収されてしまう!
最後の力でハセから逃げるが・・・明神はすでに致命傷を負っていた・・・
魂の大部分を吸収された為に、じわじわと死に近づく明神。それを無力に見続ける彼。
自分を責める彼に、責任は全て自分にあると言う明神。
だが彼は否定する。
『世界』のこと、霊の事こと、『力』のこと・・・全て自分で選んだ事だ、と。
明神は彼にキッカケを与え、彼の道標―――目標になっていた。
「ひとりにしないでくれ…もうひとりは……次は耐えられそうにない…」
怯える彼に独りだと感じるのは、恐がりだからと語る明神。
自分の代わりに「誰か」の悩みを聞いてやれ、そのためにうたかた荘が在ると。
「誰か」と共にいれば独りじゃないと。
そして、自分の後を継いで案内屋になってくれと頼む明神。
気付いてやれる誰かを守り、誰かの為に戦う人間になれ、と彼―――冬悟に想いを託す。
・・・それが明神の、最後の言葉だった。
・・・ずっと前から違う呼び方をしたかった。
自分を理解してくれて、守ってくれる。進むべき道を教えてくれて、無償の愛を注いでくれる。
みんな家族だと言ってくれた彼。
でも冬悟はもっと前から・・・家族だと思っていた。
だから違う呼び方をしたかった・・・父さんと・・・
・・・だけど、その想いはもう届かない。
もう、目の前にいる彼は何も語らない・・・その温もりも、優しさも、全て過去のものになってしまった。
冬悟の傲りは、自身の「死」では許されなかった。
冬悟のミスは、大切な者・・・父親の死を招いた。
きっと冬悟は忘れない。周り全てが赦しても、自分が自分を赦さない。自分が父親を殺した事を。