天保異聞 妖奇士 説十九

「昔話」口調でドッペルゲンガーって言われると、すごい違和感があるね。

・・・そうだよな。自分が本当に「竜導往壓」かなんて確認したくないよな
往壓に異界に居た間の記憶は無い。記憶の混乱が起きている事と異界という異常な空間。何が起きていてもおかしくない
――他人の記憶を自分のモノだと信じていても。異界から生じた「何か」が、自分を人間だと思い込んでいても。

自分には数多の可能性が在り、望んだ人生が在る。
そう信じていたのに・・・急に己の人生に死ぬまでレールが敷き詰められている事を知ってしまった。
昔と今では「成人」の年齢は違うけど、成人直前にそんな事に気付いてしまう苦しみは、どれ程のものか・・・
往壓が「此処とは違う何処か」=異界を望んでしまうのも当たり前だろう。
不幸だったのは、それが妄想で終わらず本当に叶ってしまった事か。
往壓の母上を見て「アンティーク〜西洋骨董洋菓子店」を思い出した。
神隠しにあった我が子が、一年後に急に帰って来た。そんな事があれば、過保護にもなるだろう。
――それは当然の反応だけど、異常な事態だ。
そりゃ往壓も逃げ出すよ。

土方歳三ってアンタ・・・
竜導家に伝わる脇差に宿った妖夷は『金士』。そして漢神は『士』
『士』の鉞(まさかり)の方が『往』の鉞より強いのか!?
「王の出行に際する呪いの儀式用具」よりも武士が持つ儀器の方が強いってか。
・・・もしくは、あの脇差しを持つ方が「本物」という事か・・・