蒼穹のファフナー RIGHT OF LEFT

それは、フェストゥムとの共存なんて夢のまた夢だった頃の話。
世界は絶望に包まれ、竜宮島は必死に「日常」を保っていた頃の話。

頻繁に行われる卒業式。
その実態は・・・真実を知った者達がALVISへと、大人達と同じ世界へと旅立つ儀式だった。
――大人達の世界に「強制的」に入れられるわけではない。真実を知ってしまった者は・・・もはや竜宮島という「平和」を享受することが出来ないのだ・・・

羽佐間翔子と同じ様に、体に障害を持つ将陵僚。
あぁ、そうか・・・今更気付いたけど、翔子の体が弱いのは「欠陥品」だからか。
翔子は遺伝的欠陥だと思っている様だが・・・「遺伝する欠陥」じゃなくて、「遺伝子自体の欠陥」なんだよね。
・・・言い換えれば、翔子と僚は「失敗作」か・・・。

重度障害の身でありながらALVISへと向かおうとして、そのまま死んでしまう生駒祐未の父親。
・・・動けば死んでしまうだろう事は解っていたはず。それでも向かおうとしたのは・・・作戦立案者としての責任を取ろうとしていたのだろう。
たった数%の希望と、絶望にまみれた、その作戦を立案した責任を・・・。
モリージング―――無意識に植え付けられた知識―――が呼び起こされる生駒祐未。
空気が乱れていたという事は、島のミールも反応していたのだろうか?

ファフナーとのシンクロを簡単にこなし、新しい「肉体」に喜びを感じる将陵僚。
・・・皮肉にもそれは「積極的な自己否定」が強く、自らの躰にコンプレックスを抱いていた証明に他ならない。
どんなに明るく、気にしていない様に振る舞っていても・・・「体が弱い自分」を嫌っていたのだろう。

――犬にとって、無色無臭な毒など無い。人の通常細胞とガン細胞の臭いさえ嗅ぎ分けられる可能性があるのだから。
だからプクは、その「餌」の異変に気付いていたはずだ。それでも「僚(主人)がそれを望むのなら」と、食べようとしたのだろう・・・
この犬反則(T_T)

総士ファフナーパイロットになろうとしていたのか。・・・だが、左目の傷はパイロットとして致命的だった。
自分を「自分」たらしめる証が、「自分じゃない何か」に変わる事を拒否する。
・・・運命と言うのか、皮肉と言うのか・・・

L計画・・・島の一部(Lブロック)を切り離し、「それ」を竜宮島だと思わせ、本島からフェストゥムを引き離す・・・囮を使い、本島を守る作戦。
だがLブロックを本島と思わせるには、それなりの武力を持たなければならない。
つまり、相当数の人員―――人柱―――が必要なのだ。

ついに始まってしまう「L計画」。次々と戦闘で死んでいく仲間達。
ファフナーに乗る事で、同化現象を起こし倒れるパイロット。
――徐々に明かされる希望。そして希望にすがり絶望に進んでいく仲間達。
『早く! 早く!』『お願い早く・・・』『俺たちは此処に居る』『帰りたい』
もう、守る事など放棄したい。ただ親しい人と一緒に居たい。・・・そんな願いは叶わない。
無情にも、本島の守護を強制させる環境に置く。・・・これがL計画か・・・
――やがて結晶化し、消えてしまうパイロットが現われ始める。
フェストゥムによる、常に隣り合わせの「苦痛の死」
そして、ファフナーによってもたらされる「人外の死」
『どうせみんな居なくなる』
・・・ここには「死」が満ちている。在るのは微かな希望と大きな絶望だけ・・・
3名のパイロットと8人の大人達。
・・・生き残ったのはたったそれだけ。
そしてようやく、彼等に希望への扉――脱出艇が現われる。
これで竜宮島に帰れると思ったのに・・・

――当時、フェストゥムは海中に存在する事は不可能だと思われていた。
海中の結晶物との代謝(同化)が制御出来ず、不規則な塊になると推測されていたが――

脱出艇を囲むフェストゥム達。・・・フェストゥムは海中にも存在できるようになっていた。
そして・・・8人の大人と1人のパイロットが故郷を目の前にして消えた。
2機のファフナーも・・・僚と祐未も、故郷を目の前にして何処かへ去った。・・・あんなにも強く強く願っていた、竜宮島への帰島を諦めて。
――ここで帰ったら、フェストゥムに本島の位置が分かってしまう――
そんなことになったら・・・この計画で死んでいった仲間達の死が、本当に無意味になってしまう。
彼等の死を無駄にしない為に・・・島の平和を守る為に、2人はここで死ななくてはいけない・・・
死を無駄にしない為に、新たな死を生む。・・・そんなのは悲しすぎるよ・・・

たった2人だけ存在する「世界」。
祐未への想いを告げる僚。僚への想いを告げる祐未。
もう好きとかそんな感情はとっくに通り過ぎて・・・居る事が当たり前で、無くては生きていけない存在になっていた。
・・・そして・・・結晶化し、居なくなる祐未。
・・・「世界」に、誰にも届かず、例えようのない僚の慟哭が響いた。
海中に存在するフェストゥム
環境に応じて代謝する。以前は出来なかった事が、出来る様になる――進化する。
それは生きているという事だ。生命という事だ。
すでにこの時から、フェストゥムの異変は起きていたのか・・・。

数ヶ月後、僚の計算通り竜宮島に辿り着く「残骸」
その匂いでプクは識ったのだろう。其処に居たのは正陵僚で、今はもう何処にも居ない事を・・・
そしてプクは主人の後を追った・・・

僚が残した戦いのメモリーそれはどれ程の価値があったのだろうか?
彼等が守った半年の平和はどれほどの意味が在ったのだろうか?
――きっとそれらは、計り知れない程なのだろう。
だが・・・同時に、彼等の死が、彼等の人生がどれ程の価値を持っていたかも分からないのだ。
それら全てを解っているから・・・総士は断言したのだ。
「例え、それが1日限りの平和だったとしても――僕は、その価値に感謝する」と。